ファームでの出来事がメインの小説本です。
ファームで最初に行うのは体を洗うこと。それまでに蓄積された汚れとそれまでの自分を洗い流すかのように丹念に、まるで洗礼であるかのようにすべてを洗い流します。それまでの体験を伝えた後、ようやくお腹を満たせます。その後ドロシーと名乗る少女は同じく寝食を共にするある少女から目が離せません。なにせ自分の自慢であったであろう髪までも、自らの意思で断ってしまったのですから。
ふたりはファームでの生活に慣れていきました。色のつく情を横目に、様々なことを学びました。ドロシーも例外ではなく、同期の同衾を受け入れます。ドロシーは人目を忍び、全てを洗い流すためにシャワーを浴びに行きます。先客としていたのは例の少女、アンジェ。彼女の成長に関心しつつ、お互いにある約束をします。
実地でのテストも難なくこなす彼女達にはささやかな夢がありました。そのために節約をし、あのドロシーでさえパブによることを禁止されてしまいます。自分ではない自分を演じるからこそ、自分のかなえたい夢はどうしようもなく煌めいて、だからこそ胸が高鳴ります。夢を叶えた後、ファームに戻るというまさにその当日、ドロシーは絶望にも等しい事実を伝えられます。「どういうことなんだ?」とたずねてもアンジェはのらりくらりと言葉を濁すのみ。「今言ったことが全てよ。それ以上は知らない」
ファームに戻ったドロシーはアンジェの抱擁を受けます。そう、当のドロシーは忘却の彼方にあった約束をアンジェは決して忘れていなかったのです。
今は昔。クイーンズメイフェアに潜入しているドロシーたちにちせが尋ねます。作法を知る方法はないか、と。そんなちせにアンジェはとある物を手渡します。無くしたはずのそれは確かに存在していたのです。いつかのために。たとえその『いつか』が来ないことがわかっていたとしても。なによりもドロシーとの約束を守るために。
ドロシーの視点から描かれる相棒・アンジェの成長譚、そしてドロシーがアンジェを相棒というその理由を垣間見ることができるたまらない作品となっています。