ストライクウィッチーズ二次創作:コーヒーの味

2013年2月10日日曜日

ストライクウィッチーズ

t f B! P L
『スオムスいらん子中隊』の2巻から3巻の間をイメージしてみました。そういうわけで未読の方にはネタバレ注意となっています。ビューデルという表記でいいのかわかりませんが、とりあえずそう呼ぶことにしています。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=346376

 カウハバ空軍基地。
 この基地はつい先日ネウロイから奪い返したばかりで、設備などは急ごしらえで見た目は悪い。それでもかつて自分たちがいた場所に帰ってくることができた。そのことが単純に嬉しかったのだろう。ウィッチたちも整備兵たちもみなしばらく興奮していた。

 夜。
 エリザベス・F・ビューリング少尉は寝つけずに基地をぶらついていた。クールビューティーと言われている彼女もネウロイを追い返したことは嬉しかった。それでも暴れてしまうほど飲むことはない。まだ戦いは終わったわけではなく、続いているからだ。
 今夜は比較的天気も落ち着いていて外に出ることができた。吹雪ともなれば、外へ出ることも危ない。
 いつも吸っているタバコをくわえながら歩いていると同じく外を歩いていたハンナ・ルーデル大尉の姿を見つけた。
 かつてともに戦った大尉と再び戦場で行動を共にするとはカウハバ空軍基地に着任した頃は想像もしていなかった。
「ヘル・カピターン」
 思わずカールスラント語が口から出てきた。大尉という意味だ。
 突然の呼びかけにルーデルは身構えるが、すぐにビューリングだとわかり体の力を抜く。身構えた際、後ろでひとつにまとめられている金髪が闇の中で揺れた。
「……シルバー・フォックスか」
 ルーデルがビューリングだとすぐに認識できなかったのには理由がある。銀色の長髪で黒いジャケットに黒いズボンという出で立ちは、闇の中で姿を認識することが難しかったのだ。
 シルバー・フォックスというのはビューリングのかつてのコールサイン。あまり呼ばれたくはない。そもそも、今ビューリングのことをシルバー・フォックスと呼ぶ者はルーデル以外に存在しない。
 ビューリングは頭を下げ、そのまま通り過ぎようとする。だが。
「待て」
 上官にあたるルーデルにそう言われてしまえば待つしかない。上官の命令に逆らうことなんてできない。かつてのビューリングなら不服従の態度を取っただろうに。偏屈の塊だった自身の変化を、少しおかしく感じた。
「こんなところで偶然にも出会ったんだ。ついてこい。一杯やろうじゃないか」
 闇の中、ルーデルがほほ笑んだように見えたのは彼女も同じことを感じたからかもしれない。

 室内へ戻り、適当な木箱をテーブルに見立て、対面するように座る。そんなふたりの前にはコーヒーが置かれている。
「カウハバ奪還を祝して」
 ルーデルがそう言って、カップを軽くかざしてから口に含む。ビューリングもそれにならった。
「カウハバ奪還を祝して。なら酒でもよかったと思いますが」
「別にいいじゃないか。コーヒーは嫌いじゃないだろう」
 ビューリングの生まれたブリタニアでは紅茶が一般的に飲まれているが、彼女はコーヒーの方が好みだ。そういえばタバコもリベリオン製のものを吸っている。
「明朝。我々はカールスラントへ戻る」
 コーヒーの湯気越しだからか、ルーデルの表情はどことなくさびしげに見える。
「そうですか」
「ああ。今回の作戦で編み出した戦法をカールスラントへ伝えるためにな」
「……そうですか」
 ビューリングは生返事を繰り返している。そもそもルーデルとこんなに近くで話をするなんてことはこれまでなく、どうにも居心地が悪い。ビューリングには彼女に対して負い目があり、それが居心地の悪さの原因になっているのだろう。
「どうした? いつもと感じが違うぞ」
 居心地の悪さが伝わってしまったようだ。ルーデルが気づいて、そのことを尋ねてきた。
「あなたとこうした時間を過ごすのは初めてでして、緊張しているんです。それに対面に座られるのはどうも」
 ビューリングが肩をすくめて答える。
「何か問題でもあるのか」
「ええ。私としては見たくないものが眼の中に入ってきます」
 ルーデルはビューリングの答えに少しだけ口を閉じた。見たくないものを考えているのだろう。
「ああ。これか」
 そうつぶやいたルーデルが自分の鼻の上を指でなぞる。そこには傷跡がある。
 かつてオストマルクでビューリングが護衛をしていた時にできた傷だ。その傷はビューリングのせいでできたと言っても過言ではない。
「それを見ると、古傷をえぐられるような気持ちになります」
 言ったところで古傷が癒えるはずもないというのに言ってしまう。もしかすると、今を逃せば次はないからかもしれない。
「――確かにこの傷は貴官が原因だ」
 ルーデルがそう言うと、沈黙が広がる。ビューリングは何を言えばいいのか分からず、視線をルーデルからそむける。そのため、今どういう表情なのかもわからない。
「だから。責任をとってもらうぞ」
 その言葉に反応したビューリングが顔を上げると、ルーデルは笑みを浮かべていた。
 ルーデルは大尉で、ビューリングは少尉。国は違うとはいえ、上官の命令に逆らうわけにはいかない。ビューリングは心の中でため息をつき、ルーデルのそばへ行く。
「ヤポール。ヘル・カピターン」
 敬礼をしつつカールスラント語で返答をしたビューリングも、気がつけば笑っていた。
 そのまましゃがむと座っているルーデルと目線が合う。紺碧の瞳が見つめ返してくる。
 ビューリングの視界には鼻の上にある傷跡も入っているが、もう嫌じゃない。むしろルーデルの美しさをより一層引き立てているようにも思えてくる。
 不思議なものだ。ビューリングは心の中でそうつぶやく。
 そのまま5分は見つめ合っていたと思う。ビューリングはさらに近づく。ルーデルは拒むことなく、見つめている。ビューリングはそのまま近づき、唇を奪う。少しだけコーヒーの味がする。嫌いではない。むしろ好きな味だ。好きな味が唇から体中に広がっていくのをビューリングは感じていた。
 いつの間にか、心臓が高鳴っていた。それはおそらくルーデルもだろう。
 だが、ルーデルとは今夜で離れ離れになってしまう。
 だからビューリングは自分の分身にあたるモノを彼女に渡すと決めた。渡すのは明朝。予備もあるし、問題はない。願わくば、ふたりをつなぐ架け橋となってくれますように。ビューリングはらしくないと思いつつもそう願わずにはいられなかった。

 翌日。
 コーヒーを飲むビューリングの表情がどこか穏やかになっていることに不審を抱いたにスオムス義勇独立飛行中隊を代表して、世話焼きな穴吹智子中隊長が抜刀してでも聞き出そうとしたが、ビューリングはついに何も言わなかった。
 当然だ。あの時のことはふたりだけの秘密なのだから。

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