「新年です」
「はい」
「これでもうわたしたちは2年間付き合ったようなものですね」
「いや、2年参りじゃないんですから。12月から付き合い始めたばかりだからまだひと月くらいですよ」
「そんな細かいことを気にしているからこれまで恋人がいなかったんですよ、あなたは」
「それはあなたもおなじじゃないですか」
「そんなことはありません。自我が芽生えるのが5歳だと仮定して、それから先は小学校で社会について学ぶことで忙しいのですから少なくとも中学生になるまでは恋人がいなくてもおかしくはありません。だからわたしはまだ10年ほどしか恋人がいなかったという結論にいたります」
「はあ」
「む。なんですかその反応は。恋人と新年早々から一緒にいるんですからもう少しリアクションは派手なのをひとつお願いします」
「そんなことを言われましても」
「もしかしてリアクションが薄いのは寒いのは苦手だからでしょうか。甘酒とかおしるこをもらってきましょうか?」
「いや、大丈夫です。まわりにたくさんひとがいますからペンギンが身を寄せ集まっているようなかんじになっててむしろ暑いくらいです」
「そうですか。ならいいんですけど……それにしてもまったく進みませんね」
「有名な場所ですからたくさん人が集まるんでしょうね」
「これなら地元でお参りすればよかったかもしれませんね」
「でも、ここにいきたいと言ったのはあなたですよ」
「そうかもしれませんが、ここまでの人混みだとは思ってもいませんでした」
「てっきり知っているのかと思ってましたがそうじゃなかったんですね」
「そうですよ。何か悪いですか?」
「うーん、めんどくさいですね」
「……そんなめんどくさい女を好きになったあなたがいけないんですよ」
「あ。いまのはかわいかったです。もう1回お願いします」
「もう1回? いやです」
「えー。なんとかお願いできませんか?」
「どうしてもというならやぶさかではありませんが、ひとつ条件があります」
「なんですか」
「キス……してください」
「もう、しょうがないですね」