2018年6月3日に東京ビックサイトで開催されるcase1 Mission in Casablancaにて100円で頒布するSSの内容(一部)です。プリンセスとアンジェの視点でそれぞれのことに想いをはせています。見やすいように一部改編しています。
ちなみにほとんどプリンセスとアンジェだけです。ちせ殿なんて背景と同等です。
詳細:https://pupuyuri.tumblr.com/
・プリンセス視点
朝。
目覚めたわたしが最初に見るひとはわたしにとって、とても大切なひと。
『彼女』はわたしが笑うとすぐさま素敵な笑顔をかえしてくれる。その笑みを見ることができるのはわたしだけなのはきっとプリンセスとしての特権、もしくはこれまでがんばってきたわたしへのご褒美……というのは言い過ぎかもしれない。
いつまでも見ていたいがそうは言っていられない。アルビオンに王国がある以上、王家は様々な場所で必要とされている。そして今のわたしはプリンセス。
プリンセスは忙しい。プリンセスでなくても忙しいのかもしれないが、とにかく忙しい。様々な人に会い、様々な場所に行き、様々な言葉を聞き、そして話をする。もちろん笑顔を携え、ふさわしい立ち居振る舞いを心がけなくてはならない。時にはエスプリを効かせて。
多忙であることはある意味でとてもありがたかった。するべきことがあり、それに対応するための事前準備などで、考えなくてよいことを考えずにすむ。考えてもどうしようもないことなんていくらでもある。たとえば過去のこと。いくら自分が振り返ったとしても決して近づくことはない。むしろ時間が経てば経つほど離れて行ってしまい―いつか忘れ去ってしまうこともあり得る。
そう。
もう二度と近づくことなんてないと思っていたのに。
『彼女』はもう一度わたしの前に姿をあらわしてくれた。わたしのことを覚えていてくれた。自分を偽って生きるという並大抵ではない覚悟を選択してまで。
これを奇跡以外になんと表現すればいいのか。これまでの十年間で培った知識を総動員しても、残念ながら他の呼び方は見つからなかった。
「おはようございます、姫様」
「おはよう」
ベアトリスはいい子だ。わたしの身の回りのことを色々と行ってくれる。かわいらしく、最近ではちょっぴりと頼りにもなるようになった。ベアトリスと出会った当初は身分や立場というものがよくわかっていなかったから、もしかするとそれで彼女に何かしらの迷惑をかけているのかもしれない。
とにかく、わたしの大切な友達のひとり。
友達。
友達はほとんどいなかった。小さいころはそれどころではなかった。生きるために必死で奪うことでしか、生活ができなかった。いくら懺悔しても誰も許してくれないだろう。
「プリンセス、おはよう」
「ごきげんうるわしゅう、プリンセス」
ドロシーさんとちせさんが背中から声をかけてくれた。ここよりもはるか遠くの島国から来たちせさんは誰に教えられたのか古風な表現でわたしを和ませてくれた。本人にその意図がたとえなかったとしてもつい和んでしまうのはきっと生まれ持った気質なのだろう。
隣にいるドロシーさんもいつもと変わらない。博物倶楽部の中でも人生経験が豊富な彼女は、わたしの知らないアンジェを知っている数少ない存在でもある。そのためドロシーさんの大好物であるお酒と引き換えにアンジェの情報を提供してもらえないか画策してみたのはいいものの、わたしがお酒を入手しようとするだけで怪しまれてしまう可能性が高く、現状はなにもできていない。
「おはよう、アンジェ」
「お、おはようございます。プリン、セス!」
ちゃんと笑顔で応対できているのか、毎朝挨拶するたびに心配してしまう。
アンジェ。
わたしにそっくりで、でもまるで正反対のひと。その正体は共和国側のスパイで、彼女はわたしと入れ替わるチェンジリング作戦のために壁を越えて、わたしに姿を見せてくれた。
表向きはインゴグニアから来た留学生というカバーをしている。インコグニアはアルビオン王国よりも歴史は浅く、かつて流刑地でもあった国なので、この国に住む人が無意識に見下してしまうのはある意味しかたがないとも言える。
ただ、その方が楽だと以前彼女から聞いた。
確かにここではそういう考えを持つ人は少なくない。少しずつでも変えていければいいのだけど、一度根付いてしまった意識を変えるのは難しい。
わたしも、幼い時の手癖が未だに抜けないのだから。
今日の空は、どうしてだか少しくすんで見える。
・アンジェ視点
自分のそれまで当たり前だと思っていた生活が逆転したような経験をしたことはあるだろうか。私はある。あの時のことは今でも鮮明に思い出せる――いや、忘れることができないと表現したほうがいいかもしれない。
それまでの生活を幻想と表現するなら、それからの生活は地獄であった。自分を知らない世界、自分の知らない場所……生きるとはすなわち奪うことだと身をもって体感せざるをえなかった。
ファームにおいて心がけていたことがある。それは特定の誰かと必要以上に親しくしないことだ。ここでは誰かがいなくなるのは決して珍しくなかった。新しい顔を見かけるようになったと思ったらいつの間にかいなくなってしまう、なんてことが日常茶飯事な環境であったから、そうなるのもおかしくはないだろうし、きっとそうしていたのは私だけではないだろう。そういう意味ではドロシーは出会った時から特殊――もしくは奇特――だった。それが彼女の長所なのは間違いないが、それが弱点にもなりかねない。
私がスパイになったのは壁の向こうに行くためだ。
久しぶりに目の当たりにした彼女は、初めて会ったあの時と同じくらい眩かった。
輝いているような金髪。眩いばかりの笑顔。高貴な者であること疑わせない柔らかい物腰。そしてかわいい。誰が見たとしても彼女がプリンセスであることを疑う者はいない。
しかしそうではない。それを私は、いや私だけは理解している。そして、だからこそわかる。彼女の笑顔の下にあるモノの正体を。それを得るためにどれだけの涙を流したのかを。それを表に出すことなくひたむきに隠すためにどれだけの努力をしなくてはならなかったのかを。そうする理由があの時の決意であることを。
私のために彼女はプリンセスになった――そのことを実際に見て確信できた。
それが、いや、それを奇跡と呼ばずにはたしてなんと表現すればいいのか。
「おはよう、アンジェ」
今日もプリンセスは笑顔で私に挨拶をしてくれる。
「お、おはようございます。プリン、セス!」
カバー通りの田舎娘風にプリンセスに返す。
どれだけの数をこなしても、カバーは決して慣れない。自分でない自分を演じ続けることは体力を消耗し、神経をすり減らす。博物倶楽部ではカバーしないでいられるのは正直ありがたい。
プリンセスは言うまでもなくプリンセスだ。王国では重要人物で護衛もついている――もちろん男なので女性用のトイレットにまでは入ってこないが。
そして彼女のことは全校生徒が理解している。インコグニアなんて僻地から来た私ですら知っていたのだから。
プリンセスのそばにいてわかったことがある。彼女は強い女性ということだ。お姫様だからと言って全員が素直に彼女に従うわけではない。権威や高貴なんて言葉に過剰に反応する連中は一定数存在するし、立場上そういう連中を無視することもできない。最悪なのは陰湿に行うから避けようがない。一定数は必ず応対しなくてはならない。
そして、私が彼女に苦痛を強いている張本人だ。
どれだけ過去に思いを馳せたとしても、覆ることはない。そうだとしても彼女に辛い人生を強要してしまったことはきっとこれからも後悔してしまうのだろう。
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